16 年から始まったホテル開発ブーム。
観光を基幹産業とすべく官民一体となった施策により下支えられたホテル産業。
2020 年オリンッピック後の動向はどうなるのか読みときます。
これからの観光市場動向とホテル開発動向。
今後どうなるホテル市場!
ホテル設計者の目線で考えるこれからの観光市場動向とホテル開発動向。
弊社ではビジネスホテル、キャビンタイプホテル、シティホテルなど多数のホテルデザイン設計を手掛けています。お客様との打ち合わせの席上などでよくかわされる会話が「東京オリンピックまでですよね、ホテルの景気がいいのは」あるいは「オリンピック以降はホテルが余ってしまうのではないか」という内容で、今はホテル需要が多いのは理解できるが、将来にわたって本当にこのまま市場は成長していくのだろうか?という疑念、懸念が多いようです。
弊社は従来からホテル設計案件も多く、しかもオフィスからのリノベーションでホテルにしたり、マンションからホテルに用途変更したりと、さまざまな手法でホテルが作られ、ホテル供給過剰ではないかと気になっていました。
弊社なりに統計資料などから現状観光市場の把握そして今後の推移などを予測してみることにしましたので今後のホテル開発の参考にしていただければ幸いです。
目次
- 国策として基幹産業へ育成「観光市場=30兆円」
観光戦略会議「明日の日本を支える観光ビジョン」
ビザ要件の緩和
DMO、MICEなど地域に全体での観光誘致と整備
観光しやすい環境形成 - 訪日外国人旅行者のトレンド
2020年4000万人、2030年6000万人
外国人延べ宿泊者数からみるホテル需要
ホテル稼働率から見る上位地域
ホテル種類別稼働率
今後のホテル需要と供給について - 国内日本人国内旅行トレンド
国策としての観光需要押上施策(対少子高齢者)
観光、帰省、出張などの旅行者数の推移とその分析
ホテル種類別利用者別動向 - 今後のホテルトレンドについて
今後のホテル市場はどう変遷していくのか
国内外宿泊プロフィールから考えるホテルルーム施策はどうあるべきか
宿泊専業ホテルから総合サービス業としてのホテルへと舵を切る時
求められるパーソナライゼーションの進化とAI
高度なOTA(online travel agent)活用とデジタルイノベーション
まとめ
国策として基幹産業へ育成「観光市場=29兆円から37兆円へ」
国策としての「観光立国」は本気だ!
飲食市場規模5兆円、スーパー市場規模18兆円、建設市場規模17兆円(業界動向.com調べ)に比べてもその大きさがわかる。
観光戦略会議「明日の日本を支える観光ビジョン」で掲げる目標は2020年でその市場規模を29兆円、2030年には37兆円規模にしようというものです。29兆円には出張旅行なども含まれているものの、その観光市場における宿泊市場規模を推測してみる。現在2兆円規模といわれている宿泊市場規模。観光市場規模22兆円(2017年)→29兆円(2020年)は31%の増加を見込んでいるのでこの増加率を宿泊市場に当てはめると→2.6兆円。2030年には3.3兆円に増加していくと見込まれる
はなはだ乱暴な計算であるが、そこからホテル軒数の伸びを予測すると、現在約10000軒(旅館除く)が2020年には13100軒、2030年には16637軒となる。ここ12年程度で6600軒あまりのホテルが増加する計算である。年間550軒。これが最大数と仮定するならば、まだまだホテル需要は伸びていくと考えるべきだろう。
ちなみに2016年→2017年の全国のホテル増加件数流は134軒であった。これから本格需要に向けた開発ラッシュのホテルが次々とオープンしていくがその2倍のホテルがオープンするとしても年間270軒あまり、2020年までに1350軒の新規開業となり最大数の20%にとどまると予測される。
市場はまだまだ熱いといえるだろう。
また2017年の受入外国人延べ宿泊者数は7800万人泊(前年比12.4%アップ)となり、日本人延べ宿泊者数は4億2019万人泊(前年度-0.7%)で
合計4億9819万人泊となっている。
これを政府目標の数字と照らし合わせると2020年までに31%増=6億5262万人泊、2030年までに27%増=8億2883万人泊ということになる。
近年国内旅行の伸びが鈍化しているが「働き方改革」などの政策により国内旅行を下支えしている目論見があることはいうまでもない。
観光戦略会議「明日を支える観光ビジョン」より
2020年に向けて観光市場を基幹産業にすべく国土交通省が主管となり取りまとめた施策集である。2016年に策定し2020年までの4年間で達成しようと各方面で迅速に動いているようである。
また国土交通省ヒヤリングしたところ2020年以降の施策については再度練り直しオリンピック以降の観光市場基幹産業化に向けての第二弾施策を準備中であるとのことだった。
観光戦略会議「明日を支える観光ビジョン」より
先述したが、国内旅行需要が伸び悩んでいるがその大きな施策が「働き方改革」すなわち極端だが休暇をとって旅行しろ、というものである。
この下支えによって国内旅行については2030年まで横ばいで推移させるということである。したがって29兆円から37兆円の8兆円の伸びは受入外国人旅行者によるところが大きいと言えるだろう。
つまりホテルにおける設備、デザイン、使い勝手やデジタル化はすべて外国人の特性に合わせた配慮が今から求められることになるだろう。外国人というと白人系を想起するがインバウンドの73.8%はアジア系の旅行者ということを理解し対応していかなくてはならない。
訪日外国人旅行者のトレンド
外国人はアジア圏(中国-1、台湾-2、韓国-3、香港-4、以下7カ国)で73.8%
米国6.7%
ヨーロッパ、オーストラリア8.3%
となっている。
白人系旅行者が多いように感じるが、実際は訪日外国人は圧倒的にアジア圏の方々が多い。2020年4000万人、2030年6000万人と体感的にはアジア人の中に日本人がいるというような逆転現象がおこってくることだろうと思います。
観光庁統計データより
平成29年訪日外国人消費動向調査-集計データから、
宿泊タイプ別の統計を分析すると下記のような結果が判明した。
●出身国別ホテル滞在を顕著に好む訪日客
香港、中国次に台湾、シンガポール、ドイツ、フランス
●出身国別簡易宿所(ホステル)滞在を顕著に好む訪日客
圧倒的に韓国、ついでマレーシア、インドネシア、欧米客はスペイン、フランスを筆頭にそうなべて利用率は高い
●出身国別旅行同行者別訪日客
・一人旅はアジア圏ではシンガポール、ベトナム、欧米ではドイツ、アメリカ、英国が高い
・カップル夫婦旅は香港、シンガポール、マレーシア、欧米はスペインを筆頭にどの国も高い値をしめしている。
・家族旅については香港、台湾、中国、タイ、フィリピン、欧米客はいずれも
低い
・友人同士旅では韓国が圧倒的に高く、次に台湾、タイ、マレーシアとつづく、欧米客は家族旅行とともに低い
●出身国別滞在日数
・3日以内は圧倒的に韓国、アジア圏では他はもっと長い滞在になる
もちろん欧米客も少ない
・4から6日以内台湾を筆頭に韓国、香港、タイ、欧米客は少ない
・7から13日以内シンガポールを筆頭にマレーシア、インドネシア、大きくはなされて香港、中国、タイの順になる。スペイン、ロシア、アメリカと欧米客も多い。
・14日から20日以内はスペイン、オーストラリアの順になる。
調査対象国(韓国/台湾/香港/中国/タイ/シンガポール/マレーシア/インドネシア/フィリピン/ベトナム/インド/英国/ドイツ/フランス/イタリア/スペイン/ロシア/英国/カナダ/オーストラリア)
観光庁統計データより
ホテル稼働率から見る上位地域/ホテル種類別稼働率については下記の通り
観光庁統計データより
このことから今後のホテル需要と供給について考察していくと
簡易宿所(ホステル)は短期利用客が多く、特に韓国人1人旅か友人との旅行で多く利用される。特に韓国になじみのある大阪の稼働率が高いのは必然と思われる。
また欧米客も関心を強く寄せている。長期滞在の利便性を追求したホステルが今後望まれるだろう。
ビジネスホテル、シティホテルについては4、5日滞在の訪日客は台湾、韓国、香港の客であり欧米客はほぼいないことから、この4、5日滞在の台湾、韓国、香港訪日客を満足される施策が望まれる。また1週間から2週間滞在の訪日客で多いのはシンガポール、マレーシア、インドネシアと欧米客となりこのプロフィールに留意したホテル開発や施策が望まれるだろう。
国内日本人国内旅行トレンド
2016年度の宿泊旅行実施率は過去最低54.8%。
特に50歳から79歳のシニア女性の宿泊旅行参加率が減少したのが顕著な特徴であった。
出典JTB観光年報より
またこの市場を下支えしていく政策のひとつである「働き方改革」は、小・中学生を有する家庭の家族旅行を増加させ、友人との旅行や夫婦での旅行の機会を増やすことにある。
また男性の1人旅機会も増加していることも注目されるポイントだろう。
出典JTB観光年報より
出典JTB観光年報より
地方は旅館、都市部はホテルが好まれる傾向がみられる。
しかしながらホテル利用は全体の60%あまり。宿食分離の方針ともあいまって今後も宿泊特化型ホテルは増加傾向にあると思われる。
特に近年増加傾向にある一人旅については宿泊特化型ホテル利用が多く、訪日外国人の1人旅市場もあいまって、シングルルーム比率についても検討すべきデータであると思われる。
今後のホテルトレンドについて
今後の日本国内ホテル市場について顕著なのが、現在の訪日外国人宿泊比率が約16%を占めていることになるが、今後日本国内宿泊旅行需要が横ばいとなり一方、訪日外国人の伸びが2から3倍に増加すると、その比率は30%から40%を占めることになるだろう。
その多くが中国系旅行者とイスラム系旅行者、少ない比率で欧米旅行者となる。その傾向に配慮したホテル開発や設計デザイン、機能性を考慮しなければならない。
次世代の観光市場を支えるであろう日本も含めた世界中の「ミレニアム世代」が求めるものを提供していく必要があり、その価値観や評価がホテルの衰退を決めかねない力をもつようになっていくにちがいない。とはオラクルが提唱しているホテル業界が注目するパーソナライゼーション化である。IOT、スマホ、AIというテクノロジーで宿泊予約、決済、チェックイン、ルームファシリティなどすべての局面でパーソナライゼーションされシンプルな操作性と利便性が求められる。
「効率的な」が非常に重要なキーファクターであり、効率的でないものは排除されていくだろう。
次世代ホテルはあたかも自分の部屋のように自由自在に操ることができ、自分好みの機能を瞬時に選択し、チェックインや決済も自動的に行われあたかもバリアフリーのように利用出来る環境構築こそがミレニアム世代が求めるホテルイメージなのである。
ホテル設計、デザイン当初からインターネットデジタル技術を組み込んでデザインしていくことが求められるようになるだろう。
そしてその技術は常にアップグレードできるフラットフォームが求められるだろう。
資料
出典NIKKEI PBNETより
出典トラベルボイス観光産業ニュースより