ホテルや商業ビルの建築・設計・デザイン を核にしながら、ショップ、レストラン、 カフェなどの内装・インテリアデザインまで、幅広い分野で豊富な実績をもつ(株)東京オデッセイ。
「センチュリオンホテル」や「Stay SAKURA」など新規参入プレイヤーとともに新業態ホテル開発と既存ビルをホテルに業態転換させ高稼働を誇っている。
その発想は「マーケティング」にあり、これまでのホテル開発手法から脱却した、「ファンを獲得する」ホテルづくりのプロデュースワークからその要諦を探る。
宿泊マーケット構造の変化に伴うホテル開発のマーケティングとはホテル開発をプロデュースするうえで、何が最も重要だとお考えですか。
渡邉 — 私は建築・設計ではなく、広告業界の出身ですから、常にマーケディングの視点を大切にしています。
かつての「大量 生産・大量消費」の時代は終わり、いま、すべてのマーケティングで「ファンづくり」 が基準になっています。
このホテルに泊まりたいと指名してもらえるためにはどうしたらよいかを考えています。
旅行も、代理店による団体旅行から個人旅行へと変化し、お客様がホテルをインターネットで選ぶ時代になりました。写真で気に入って、実際に宿泊してもらい、顧客体験を価値あるものにする。
その満足度が高ければリピーターになっていただけます。
写真で選ばれる時代ではデザイン力の高さが重要です。デザインがホテルブランドの付加価値を誕生させます。そのうえで、ターゲットに合わせた付帯設備や、快適な宿泊体験を提供することがファンづくりにつながります。
坪効果を重視するビジネスホテルの開発とは異なるようですね。
渡邉 — ホテルビジネスの基本は「ホテルは投資商品である」という考え方です。
オーナーとオペレーターが異なるのは当たり前で、不動産利回りの最大化を求めて150〜200室規模の同じ部屋をつくり、 ホテルオペレーターの運営力でホテルの資産価値を上げて転売する。しかし、この考えが時代にそぐわなくなり ました。
部屋数や事業収支、投資利回りだけで計画されたビジネスホテルにはファンが付きにくい。中長期滞在が求められる時代には、ホテルそのものが商品として消費者に支持されることが重要なのです。
ファンに支持されれば収益性が高まり、売却するとしても高い値段がつきます。 ネット予約が普及し、同じエリアのホテル料金がすぐにわかる時代になりました。
他社が5000円であれば、うちは4800円にする。供給過多の市場では価格競争に陥り、リニューアルの原資を稼ぐのもむずかしい。
12〜13 m²の部屋を大量につくってレッドオーシャンに入るか、差別化で一線を画するか。ホテル経営者はそこを考える必要があります。
観光・中長期滞在型の訪日外国人旅行ニーズを捉えるマーケディングを重視し、デザインや機能で差別化を図るホテル開発をいつからはじめたのですか?
渡邉 — 2008年5月に開業した「センチュリオンホテルレジデンシャル赤坂」からです。
ナイトクラブとオフィスが入居する複合ビルをサービスアパートメントホテルにコンバージョンしました。ナイトクラブの女性やテレビ局員、仕事で長期滞在をする外国人をターゲットに40m²の広めの部屋と一般向けのコンパクトな部屋の両方を設けました。
また、フロアや部屋ごとにテーマを設けてデザイン性が話題となり、最先端ホテルとして注目されました。
いまでも高い稼働率を維持しています。
ホテルは30〜40年単位の長期ビジネスで す。「消費されない」デザインをつくることは可能ですか。
渡邉 — それはむずかしいですね。われわれだって10年前に購入したスーツを着ようとすれば、どこか古臭く感じます。
最先端のオピニオンリーダーが変わっていくようにマーケティングやデザイン、そして事業は時代とともに変わるものです。
消費者は飽きるものであり、ホテルも例外ではありません。ですから、一定期間でのリニューアルを当初の投資計画に組み込んでいくべきです。
3100万人を超えた訪日外国人旅行者へのホテルづくりをどのようにお考えですか?
渡邉 — 日本は高齢化と人口減少の社会に突入しており、観光は日本を支える重要な産業です。国策として観光市場の成長が大前提です。
しかし、訪日外国人旅行者のニーズに対応したホテルが十分にないのが現状です。
17年5月に開業した「センチュリ オンホテル ヴィンテージ上野」は訪日外国人旅行者を対象として設計・デザインした最初のホテルです。
露天風呂がついたタブルルーム、2 段ベッドで最大 8人が宿泊できる部屋などを設けました。
訪日外国人旅行者に訴求したポイントとは。
渡邉 — 訪日外国人旅行者は家族で旅行するスタイルで7〜8人が泊まれる部屋を求めます。
しかし、都心のホテルはほとんど対応できていません。自炊をするのでキッチンも必要です。日本特有の露天風呂も好まれます。
もちろん日本文化のデザインと和のテイストを織り込むことですね。一方で立地に関してはビジネスホテルのように駅近である必要はありません。
19年にはプロデュースした2軒のコンバージョンホテルがオープンしました。
渡邉 –11月開業の「stay SAKURA Tokyo百蔵」は新宿区大久保にある築40年の法律学校を改築しました。
コンバー ジョンホテルは新築の半分以下の工期で、予算も大きく抑えられます。稼働しだいで は大きな利益を産み続けることが期待できます。
外観は日本古来の蔵づくり風です。バルコニーを活かした露天風呂の部屋のほか、忍者の小屋をテーマにした部屋もあります。
外国の方々にわかりやすいテーマを設定し、デザイン性の高いものにすることで、 宿泊者が写真に撮りたくなるようなしつらえに仕上げてあります。
また、12月に開業した「stay SAKURA Tokyo浅草横綱Hotel」は大相撲の元・九重部屋の建物をコンバージョンしました。
どちらのホテルもキッチン付きの大人数を収容できる部屋やコネクティングルームを設けています。
おかげさまで、こちらは訪日外国人旅行者の予約で常に満室です。
露天風呂付きの部屋と2段ベッドの部屋を設けているのはなぜですか。
渡邉 — 多様なお客さまニーズを踏まえ、客室を多様化させ提供することによって、ホテルのファンになったお客さまを囲い込むためです。
これらのホテルの利用者はホステルやキャビンホテルを利用するバックパッカーの客層とは異なります。あくまで ホテルに宿泊したい方々です。
お客様のニーズに合わせてお部屋を選んでいただく。それが稼働率の高さを維持する要点です。
テレビ東京の『風景の足跡』で紹介されました。
ホテルのデザインの潮流は変わっていきますか?
渡邉 –1990年代まではバブル経済の名残りで華美なデザインが好まれました。しかし、2000年代以降は、シンプルかつナチュラルなものへ主流が変化しています。
消費者の中心がモノの所有を欲しない「ミレニアル世代」へ移行しているからです。
今後のホテルづくりでは、テーマ設定が重要になります。「百蔵」や「横綱」のようなわかりやすい和のテーマホテルも必要ですし、最近は「民藝」や「小樽ガラス」といった伝統工芸の様式美もホテルのテーマとしてプランニングしています。
それと、「ありえない組合せ」も重要です。今年4月には「esports hotel e-ZONe ~電脳空間~」が大阪に開業します。
eスポーツのハイスペックPCフロアを兼ね備えたカプセルホテルです。
すでに大会の主催者から貸切での利用申込みがありました。
参加プレイヤーが1か所に滞在して、試合とパーティなどで交流できることが大会の盛り上がりにとって重要だそうです。
eスポーツはまだニッチな市場ですが、大きな反響を呼びそうです。
訪日外国人の旅行スタイルの変化はどのようにみていますか。
渡邉 –「暮らすように旅する」というのがキーワードです。地域の人々と交流をしながら長期滞在をする地方でもそういった交流を魅力にして、インバウンドの獲得に成功している例があります。
かつて爆買いをしていた中国人旅行者がコト消費にシフトしたように、旅行者の嗜好も常に変わっていきます。
ホテルのプロデュースはその変化を読み解き、柔軟に対応しなければならないと思います。
「暮らすように旅をする」
コロナ・パンデミック後の観光はその国の ローカルな地域のローカルな暮らしや文化をじっくりと味わうツーリズムが賑わうことだろう。その地域の人々とやってくる人々、文化の 違いを超えた交流。わかり合える絆。たったひとときでも『こころが通いあう』ことを求めて人々はやってくるだろう。
その時、ホテルは何を提供すべきなのか、どんな場を用意してあげるのか、が問われていきます。
これからこそ、真の意味でのインバウンド時代の幕開けだと感じます。それはこの日本でしかできないことだろうと思います。
日本のどこを切り取っても『素晴らしい風景』と『素晴らしいこころ』が同時に存在するところは他にないのだから。
東京オデッセイのホテルデザインをまとめた作品集をご希望の方に差し上げます。
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