映画産業と高齢化社会と商業について考えてみた。
東中野ポレポレ坐という一風変わった映画館は開業当初からの知り合いだ。
娯楽映画ではなく、ドキュメンタリー映画を中心としたラインナップで熱烈なファンが多くいることでも知られている。ちょっと変わった映画館である。
オープンしたのが1994年、その後ポレポレ東中野として再スタートしたのが19年前になる。
ドキュメンタリー専用映画館としては相当に老舗である。
当然のことのように商業的には採算が取れないと言われながら約30年あまり。
ドキュメンタリー専門の映画館?そんなん商業的に採算に合わないだろうとか、そもそも道楽だろうなどの声が強かった風潮が、最近は徐々に変わってきたように思える。
社会構造が変わったことが映画館に与えた影響
高齢者といっても元気である。スマホも手にして必要なことは検索する。
テレビ1局のエンタメから離れ、街に出てさまざまな体験を意欲的に活動する、今までにない高齢者の出現。
また、YouTubeやSNSなども駆使し、お友達との情報共有をしている高齢者女性も多く存在している。そういった社会構造の変化が映画館にも影響を与えている。
ある映画コンテンツが示唆する予兆!
驚いたのは『人生フルーツ』という映画が上映された時のことだ。
高齢者は朝が早いとお決まりだが、この映画の上映時間もそれに合わせて早朝からだった。
高齢のご夫婦の日常を切り取った爽やかなドキュメンタリー映画ならではの観客、ご夫妻で鑑賞される方が多かった。
映画が上映されるだいぶ前に近くまでやってきて、散歩がてら東中野駅前のカフェでモーニングを食べて語らうご夫妻を、上映期間中に非常に多く見受けられたのが驚きだった。
普段の東中野では見られない、朝から満席に近い状況だったのである。
この小さな映画館が動員した人数はなんと、45,000人!80席の小さな小屋でこの動員数は驚異的だ。
観客は等身大の主人公に気持ちを投影し、自分の人生を振り返り、私たちも幸せだったな、と思いを募らせるような内容だ。
そんな気持ちの伝播が動員数に繋がっていったのではないか思われる。
その一方、観客は映画だけを見にきているのではなく、映画をきっかけに街に出て買い物をして食事をするのである。
この小さな映画館が地域の商業に貢献した影響は大きい。
ここに予兆を感じる。
どこにでもあるわけではないドキュメンタリー専門映画館。
ここでしか見ることができない希少性。専門特化しているがゆえに吸引力は強い。
シネマコンプレックスではなく単館で質のいい映画館を中心とした複合商業施設ができれば、今までにはない商業環境を作ることができるのではないか。
新しい時代の新しい試みが可能なのではないか、と感じている。
『生成りの手触り』
本質がよりよく伝わるきまじめな商業
『心のネイバーフッド』
近隣の単に便利な昨日だけではなく
こころがよりそえる消費ができる商業
楽しいことが盛りだくさんの商業エリアとは違い、等身大の観客が幸せに気持ちよく消費できる『新しい商業集積』が求められているような気がしてならない。
東中野の小さな映画館から教わったことは、これからの商業について深く考えさせられた。